降りみ降らずみの山際

 ホークアイとケヴィンが偵察から戻って来た。腕一杯に枝を抱えている。身を屈めるようにして走って来、びしょ濡れの体を洞窟に滑り込ませた。
「ダメだな。霧がかかっちまって、先が見えない」
 水を滴らせながら、ホークアイは薪を地面に下ろした。同じくケヴィンも薪を置き、デュランに風の太鼓を返した。太鼓までもがすっかり濡れていた。
「フラミー、呼んでもこなかった……」
「この雨じゃ、しょうがねえよな」
 と、デュランは洞窟の外を窺った。外は大雨で、雨粒の帳が景色を覆ってしまい、自分の爪先すら見えない有様だった。
「きっと、もうすぐあがりますよ。バストゥークの雨は、ざーっと降ってすぐにやむんです」
 リースが言った。山岳地帯の出身なので、こうした気候に慣れており、さして困った風でも無かった。
 六人は神獣ダンガードを倒しにやって来たのだが、風の回廊に着いた途端、突発的な土砂降りに見舞われた。それで、どうするか相談した結果、フラミーが来なくては他の神獣の所に行けないし、リースの言う通りならすぐに雨も上がりそうなので、洞窟で待つ事に決めたのだった。デュラン達は拾って来た枝と葉っぱを積み、焚き火が起こせるような形に組み上げた。
「じゃあ、火をつけるわよ」
 アンジェラが短く詠唱し、積まれた薪に火を灯した。しかし、集めたのが湿った枝と木の葉だったため、ぶすぶすと音を立てて大量の白煙を吐いた。
「わー、けむい!」
 六人とも煙に巻かれて逃げ出した。洞窟は忽ち真っ白になってしまったが、内部に風が吹き抜けているお陰で、煙は少しずつ外に流れ出した。煙が収まるまでの間、全員で風上に集まってやり過ごす。以前マナストーンがあったこの場所は、比較的風の流れが緩やかで、火が掻き消えてしまうような事も無かった。
「もうちょっと、かわいた枝はなかったの?」
 アンジェラが腰に手を当てた。薪の一番近くにいたせいで、煙をもろに被ってしまったのだった。恨めしげな視線を受け、ホークアイは苦笑いで返した。
「あんまり木が生えてなくてさ。手当たり次第、かき集めてきたんだ」
「全部、ぬれてた。ごめんよ」
 と、ケヴィン。襟巻きのふさふさが萎んでいる。外をうろついたせいで、二人とも一際ずぶ濡れだった。
「……まあ、この雨じゃ、しょうがないよね」
 その様子を見ると怒るに怒れず、アンジェラは濡れた髪を手で梳いた。
 暫く待つと、未だに煙は上がっているものの、表面に染みた水分が飛び、少しましになって来た。六人は風上の側に集まり、身を寄せ合うようにして火に当たり、濡れた体を乾かした。濡れ鼠のケヴィンとホークアイは、洞窟の隅で髪や服を絞ってから当たった。
「雨に降られたの、はじめてだね」
 じっとりして気持ち悪かったらしく、ケヴィンは足の包帯を脱いだ。今までの旅路で悪天候に見舞われた事は無く、船の上でぽつぽつと雨粒が落ちて来た程度だった。こんなに降られたのは生まれて初めてだと言う者もいるくらいである。
「ひごろのおこないが、よかったおかげでちね」
 シャルロットも帽子を取り、内側を火に翳して温めていた。少し服が煙臭くなるが、仕方無かった。
「でも、こんないそがしい時に、降らなくてもいいのにね……」
 そう言いながら、リースは鎧を外し、錆びないようにハンカチで拭いた。雨音に包まれた洞窟の中で、仲間達は話をしながら体を温めたが、唯一デュランは鎧を着たまま、ぼんやりと火を眺めていた。
「デュラン、元気ない。どうした?」
 ケヴィンが声を掛けた。デュランが目だけそちらに向ける。
「……雨が降ると、古傷が痛むんだ」
 硬い表情で、デュランは左肩を押さえた。仲間達が心配そうに彼を見る。シャルロットが膝立ちになり、様子を見ようとした。
「いたみどめの、おまじない、してあげまちょうか?」
「ああ、頼む」
 と、デュランは彼女に近付いて座り直した。シャルロットは光の魔法を唱え、両手で左の肩を包み込んだ。鎧越しだが、癒しの光は芯まで届いているようで、デュランは目を細めた。
「あったけー……」
 回復魔法と雖も、古傷を治すほどの力は持たない。出来るのは痛みを取り除く事だけだった。デュランは仕事柄、怪我を負う事も少なく無かったが、シャルロットに会うまで回復魔法の恩恵に浴する機会が無く、体に小さな傷跡が残っていた。中には、父親の剣で遊んでいる内、うっかり転んで作ったような傷もあったが、照れくさいので彼は黙っていた。
「そのキズも、仕事でつくったやつ?」
 ホークアイが尋ねると、デュランは眉間に思い切り皺を寄せた。
「……それが、紅蓮の魔導師にやられたキズなんだよ!」
「こら、うごいちゃだめでち」
 立ち上がろうとした所を、シャルロットに窘められ、少しだけ大人しくなったが、彼は依然むっつりとしていた。
「紅蓮の魔導師のキズかあ……。しつこくて、いたそうね」
 アンジェラが舌を出した。
「痛むのはかまわん。……だが、あの時の屈辱を思い出すのがハラが立つ! あんにゃろう、いつか絶対たたき斬ってやる!」
 そう言って、デュランは拳を叩いて歯噛みした。痛いのは良いのかと、他の仲間はちょっと呆気に取られた。
「いたいのがへーきなら、もういいでちょ」
「まった!」
 シャルロットが光を消し、手を引っ込めようとしたが、デュランが小さな手を押さえた。
「それとこれとは別だよ。もうちょっとやってくれ」
「しょうがないでちねえ……」
 嘆息し、祈りの言葉を呟く。
「ありがとよ」
 再び光を灯して貰い、デュランは気持ち良さそうに目を瞑った。毛繕いされる猛獣のような様相だった。濡れて体が冷えた事もあり、癒しの光は暖かで心地良く感じるらしく、デュランはシャルロットを暫く離さなかった。
「傭兵さんは大変ですね」
 リースが気遣って声を掛けた。痛みには強いデュランなので、傷を気にする素振りはかなり珍しいのだった。
「アマゾネスくんも大変だろ。リースも、古傷の一つや二つ、あるんじゃないか?」
 ホークアイが軽い調子で聞いた。したら、忽ちリースは表情を曇らせ、少し俯いた。
「……じつは、ここに隠しているんです」
 と、額の宝石を指した。沈黙が降り、全員の気遣わしげな視線が集まった。ホークアイは何とも気まずそうに、宝石から目を逸らし、視線を落とした。
「……そうか。すまない、軽々しく聞く事じゃなかった」
「あっ、ごめんなさい! じょうだんなんです!」
 リースが大きな声で取り消した。全員呆気に取られたような、安心したような、名状し難い空気になり、また彼女に視線が集まった。冗談があまりにも下手だったかと、リースはしゅんとして周囲を盗み見ていたが、ホークアイは笑い出した。
「いやー、びっくりした」
 それにはリースもほっとして、ぽつぽつと弁解を始めた。
「私、新米アマゾネスだったので……。ケガをしても、すぐに回復してもらってたんです」
 彼女はローラントで大切にされており、アマゾネス兵達からは、ちょっと過保護とも取れるような厚遇を受けていた。一人で戦わせて貰えるようになったのも、軍団長に任命されてから漸くの事で、それもお付きの者達に見守られての戦いであった。お陰で旅に出る以前は、実力の割に実戦経験に乏しく、怪我も滅多に負わなかったのだった。
「それでいいんでちよ。おんなのこは、きずなんてないほーが、しあわせでち」
「そうよね」
 シャルロットが分別くさく言い、リースも微笑して答えた。他の皆も頷いた。
「ケヴィンも、キズあとがあるんじゃない? お父様から、たくさん戦わされてたんでしょ?」
 そう言って、アンジェラが探るようにケヴィンを見詰めた。
「キズ、いっぱいあったけど……全部なおったよ」
 ケヴィンは自分の体を見下ろしたが、確かに傷は一つも残っていなかった。丈夫な彼は、傷の治りも非常に早い。獣人王はケヴィンに対し、時には崖から叩き落とすような修行を強いたが、後の手当てはきちんとしてくれていたのだった。それを聞いて、アンジェラも安心したらしい。
「あとにならなくて、よかったわね。雨が降って痛くなっちゃったら、かわいそうだもん」
「ほんとだぜ」
 デュランはまだ不機嫌だった。
 小腹が空いたので、何か食べる事にした。いつものように、まんまるドロップやぱっくんチョコをかじろうとしたのだが、今回はシャルロットがとっておきのおやつを持っており、皆に分けてくれた。彼女はいそいそと倉庫を漁り、中から大きなチーズを取り出し、ホークアイに渡した。
「これを、ろくとーぶんしてくだちゃい」
「了解」
 受け取った円形のチーズを、ホークアイはナイフで綺麗に切り分け、全員に配った。持ち主であるシャルロットの分は、少し大きめに切ってあった。おやつが全員に行き渡った辺りで、漸く白煙が掻き消えたので、皆焚き火のぐるりを囲むように、座る場所を移動した。
「パンにのせて食べたいなあ」
 アンジェラが呟いた。美味しいが、味の濃くてしょっぱいチーズで、他の食べ物と一緒に食べたくなるような味わいだった。
「だいじにとっておいたら、かたくなっちゃったんでちね」
 乾燥して皹の入った部分を、シャルロットが千切って口に運んだ。味わいながらちびちびと食べ進める内、ホークアイが思い付いて、ナイフの先にチーズを刺し、焚き火のそばへ近付けた。熱でとろけて少し焦げ付き、煙臭い中に良い香りが混じった。炙ったチーズを口にしながら、彼は満足そうに笑った。
「こうすると、おいしいよ」
「オレもやってみよっと」
 デュランも剣を取り出し、切っ先にチーズを刺した。
「私も」
 と、リースも槍で同じ事を試し、炙ったチーズを食べ始めた。香ばしい香りが強くなる。三人とも美味しそうに食べていたが、ホークアイがナイフを見るなり、不意に苦い顔をした。
「うわ、ナイフがベタベタになっちまった……」
 溶けたチーズが刀身に流れ、蝋のように固まり始めていた。刺していた塊を口に咥え、ホークアイは指で削って落とそうとしたが、切っ先はまだ熱かったらしく、一旦手を引っ込めた。それをデュランとリースは笑って見ていたが、自分達の武器に目を移し、忽ちぎょっとした。
「げげ、オレの剣も!」
「私のヤリも……」
 二人も慌てて、武器を爪で削り始めた。垂れて固まったチーズはなかなか落ちず、三人ともいつまでも武器を擦っていた。ケヴィンが彼らの様子を見ながら、そっと指差した。
「……チーズセイバー?」
 その言葉に、皆思わず噴き出しそうになった。
「よわそうでち」
 シャルロットがくすくす笑い、遠火で炙ったチーズをぱくついた。
 雨はまだ止まない。おやつを食べ終わり、体も乾いて元気が出てくると、六人はいよいよ本題に入った。
「それじゃ、誰が風の神獣と戦うか決めようぜ」
 デュランが議題を切り出した。フラミーには何とか全員乗る事が可能だが、ぎゅうぎゅう詰めで必死にしがみ付いていなければならず、ただ乗っているだけでも落ちそうな体たらくだった。神獣ダンガードは翼を持つと言い、フラミーに乗って相対するとなれば、六人で戦おうなど以ての外である。三人で戦うのが適当で、その組み合わせを考える必要があった。
「遠くから攻撃できる人がいいんじゃない? 飛べるモンスターなら、きっとすばしっこいよ」
 アンジェラが言った。
「たしかに、武器で攻撃しても、かわされてしまうかも知れませんね……」
 リースも頷いた。六人とも空中戦の経験は無く、普段のように武器が振るえるかどうか分からない。魔法の得意なアンジェラが適任かも知れなかった。他に誰かいないかと、リースが周囲を見回すと、隣のホークアイが手を挙げた。
「オレにまかせてくれたまえ。狙った獲物は逃がさないよ」
「シャルロットも、しょーかんまほうがつかえまち。まかせなちゃい!」
 シャルロットが胸を叩いた。ダンガードには光の魔法が効かないが、今の彼女は闇のクラスに就いている。ホーリーボールを使えない代わり、魔法生物を呼び出して使役する事が可能だった。これによって、魔法の使い手と飛び道具の名手とで、三名の名前が挙がった事になった。
「どうでしょう? 回復もできて、いいパーティだと思いますけど……」
 と、リースがデュランに尋ねた。決定権は一往聖剣の勇者にある。しかし、デュランの反応は芳しく無かった。
「でもよ、魔法を唱えてる間に攻撃されたら、落っこちちまうんじゃねえか?」
「たしかに……」
 そう指摘され、リースも再び考え込んだ。全員が魔法や飛び道具を使うとなると、どうしても隙が生まれてしまう。その上、ホークアイは頼りになるが、いかんせんアンジェラやシャルロットと三人で戦った経験が無いため、戦術の勝手が分からないかも知れなかった。ホークアイも其処は素直に認め、頬を掻いた。
「かっこ悪い話だけど、オレ一人じゃ君達を守りきれないかもな」
「しょうがないですよ。そう言われると、私も自信がありませんし……」
 リースも羽飾りを撫で付けた。
「オイラに行かせて。みんなが魔法唱えてる間、オイラが守る」
 ケヴィンが申し出た。魔導師達と戦った事が無いのは同じくだが、強靭且つ回復魔法の使える彼は、ケヴィンがいるなら何とかなると期待されていた。
「よち、ケヴィンしゃん、シャルロットのたてとなり、すてごまとなってくだちゃい!」
「うん、わかった」
 シャルロットの言葉に、ケヴィンはしかと頷いた。
「捨てゴマにしたら、ケヴィンが落っこちちゃうでしょ」
 アンジェラが突っ込んだ。
「ケヴィン一人じゃ、二人を守るのは大変だと思うわ。空の上で戦うなんて、何が起きるか分からないし……」
 リースはケヴィンの身を案じていた。いくら身軽な彼でも、不慣れな場所では足を踏み外すかも知れないと。あまつさえ、魔導師の二人を援護しながらでは、尚更危険を伴うのである。
「あぶないのは、みんなもおなじ。オイラはだいじょうぶだよ」
「それに、ケヴィンは前の神獣でも戦ってくれたでしょ? 今回は休んでいてほしいの」
「……そうか……?」
 心配するリースには強く言い出せず、それきりケヴィンは引っ込んだ。頼れるケヴィンが駄目となると、選択肢は狭まってしまう。アンジェラは困った時の癖で、髪の毛をいじり始めた。
「……なんだか、私とシャルロットのせいで、かえって考えづらくなってるんじゃない? 最初から考えなおしましょうよ」
 彼女の言う通り、敢えて魔導師の二人を入れる必然性も無かった。詠唱中の二人を守るとなると、残りの一人に大きな負担が生じてしまうのだ。かくして議論は振り出しに戻った。遠距離攻撃で戦うか、それとも接近戦に持ち込むか、まずは其処から談判し、三人の相性を考えた上で選ばなければならないが、六人もいると考えるのも一苦労だった。さてどうしようかと、聖剣の勇者の意見を聞くべく、周囲の耳目が集まった。デュランは腕組みしていた。
「……はっきり言って、オレも戦いたい!」
 ついにデュランが本音を言った。言い出したらいよいよ堪らなくなったようで、浮き足立って身を乗り出した。
「空中戦かあ! くぅーっ、考えただけでもワクワクする!!」
「ノンキな事言って、落っこちちゃったらどうするのよ」
 アンジェラが肩を竦めた。デュランはにやりとしながらやり返す。
「何だよ? こわいんだったら、地上で留守番しててもいいんだぜ」
「そういう意味じゃないわよ。落っこちないように戦えるメンバーを決めなきゃいけないの」
 と、彼女は真面目に話を進めようとした。ところが、デュランはすっかり自分が行くつもりで、態度がお座なりになっていた。
「オレとケヴィンとリースでいいじゃん」
「でも、私達は飛び道具を持っていないんですよ。神獣に逃げられちゃうかも……」
 リースが心配そうに指摘する。
「だったら、武器でも投げようぜ」
「なげちゃったら、おしまいでちよ……」
 流石のシャルロットも呆れて息をついた。周囲から窘められるも、デュランはそっぽを向いて言い切った。
「とにかく、オレは絶対行くからな! 行くったら行く! もう決めた!」
「コドモじゃないんだから……」
 アンジェラが眉間に手をやった。こうなったらデュランは梃子でも動かない性格で、更に話が拗れてしまう羽目になり、彼女は大きく溜息をついた。
「まあ、デュランだったらだいじょうぶじゃないか? 回復魔法も使えるし、フラミーだって慣れてるはずだよ」
 ホークアイが取り成した。戦力面では不足は無いが、それ以外に懸念が多過ぎて、アンジェラは胡乱な目で隣を見やった。
「ほんとかなあ……」
「心配なら、アンジェラがついて行ってあげるといいよ」
 ホークアイに勧められ、アンジェラは渋々と言った風で頷こうとした。すると今度は、デュランが口を尖らせた。
「なんだよ、アンジェラが来るのか?」
「なによ、その反応は」
 アンジェラもむっとして、例の如く喧嘩が始まった。いつもの事だから誰も気にしない。向かいでやりとりを見ていたケヴィンとリースが、術無げに顔を見合わせた。
「……行く人、決まらないね」
「そうね。何か、いい方法はないかしら……」
 悩むリースの隣で、ケヴィンも考えながら、外の降り止まない雨を見た。少し雨足が弱くなった気もするが、依然外は薄暗い。続いて、喧嘩をするデュランとアンジェラ、仲裁しているのだか火に油を注いでいるのだかのシャルロットを見、ふと思い付いた。
「そうだ。フェアリーに聞いてみる?」
「それがいいよ」
 と、ホークアイも話に乗った。
「フェアリーに選んでもらおうぜ。それなら全員うらみっこなしだ」
 フェアリーは意外と口が上手く、頑固なデュランを言い包められる数少ない存在だった。その上、ずっと仲間達と一緒にいるので、彼らの性格や強みも良く分かってくれている。彼女なら上手く三人を選んでくれるだろう。そんな話を交わし、さてデュランに提案してみようと言う段で、不意に洞窟の外が明らみ始めた。引っ切り無しに響き渡っていた雨音が止み、雲のあわいから光が差し込む。雨を呼ぶ黒雲は東の果てに過ぎ去っていた。
「……晴れた」
 と、誰とも無く呟いた。
「よし、行こうぜ」
 デュランが立ち上がり、焚き火に砂利を蹴り付けて火を消した。白煙が再びもうもうと上がり、風下にいた仲間が泡を食って逃げ出す。その時にはデュランは既に剣を出し、外に出ようとしていた。
「ねえ、まだ話が終わってないんだけど!」
 アンジェラが引き止めようとするも、彼はちょっと振り返っただけだった。表情は満面の笑みである。
「早い者勝ちだ! フラミーに乗ったやつが戦う事にしようぜ!」
 と、威勢良く駆け出してしまい、仲間達も慌てて後を追った。

2015.10.15