二
六人と一匹は、ウェンデル近郊の探険に出た。東の遺跡のある方に向かい、山々のあわいを北へ、川伝いに渓谷を登って行くと、やがて流れの緩やかな河原に辿り着いた。遊び場は其処に決まったのだった。皆が元気良く水飛沫を上げる中、ホークアイと言えば、先般図書室でちょっと気になる本を見付けたので、荷物番を兼ねて木陰で読書に耽っていた。目を移せば渓谷を眼下に臨む勝景があり、鳥達の谷を渡る声、川のせせらぎも耳に心地良く、なかなかの風情であるが、留守番と言うのも案外忙しいものだった。何となれば、目を離すといつの間にか仲間達が姿を消してしまっていて、彼らを追って荷物を運ぶ羽目になるのだった。初めは六人分の荷物を運んでいたが、その内持って歩くのが面倒になり、ホークアイは皆が置いて行った頭の飾りを全部被ってみる事にした。まずリースのカチューシャを嵌め、アンジェラの冠を乗せ、シャルロットの帽子を被り、帽子の先にリースのリボンを括り付け、帽子の二又の間にケヴィンの帽子を挟んで安定させ、最後にデュランの兜で留めて完成した。案の定重くて、頭がふらついた。かくして川岸の砂利に座り、荷物に凭れ掛って読書を続けていると、アンジェラが噴き出しそうな顔で口元を押さえながら、そばまでやって来た。泳いで遊んでいたのか、頭まですっかり濡れている。髪を下ろしているのと、前髪が垂れているのとで、少し大人しそうな雰囲気だった。
「何その格好?」
「おめかし。似合うだろ」
と、ホークアイはにっこり笑って見せた。アンジェラは笑いを堪えながら、シャルロットの帽子を指差した。
「あいつに似てるよ。何だっけ……ヘンテコオヤジ?」
「げげ」
ホークアイは嫌な顔をした。桃色の帽子は、本人が被ると可愛らしいが、他人が被ると死を喰らう男そっくりになるのだった。それはそれで面白かったらしく、アンジェラはにまにましながら屈み込んだ。
「おめかしもいいけどさ、私のクラウンは返してよ」
と、にやつくのを堪えながら、ホークアイから頭の装備を次々とすっぽ抜き始めた。そして、自分の冠を見付けると、それだけ外して、再び同じ格好に戻しに掛かった。ホークアイはされるがままだった。自分の装備を取り戻すと、アンジェラは近くに置いてあった布を取り、濡れた体を拭き、足元を拭いて靴を履く。それから髪の毛を拭き始めた。
「そんな事してないで、いっしょに遊ぼうよ。みんな待ってるわよ」
布の隙間から顔を覗かせながら、アンジェラがホークアイの方を見た。
「ごめん、もうちょっと待って」
そうは雖も、アンジェラはすっかり上がるつもりのようである。日の高さと腹時計の具合からして、そろそろ食事の時間だった。ホークアイが生返事で応じると、彼女は隣に膝を突き、髪の水気を取りながら、濡らさぬように気を付けて本を覗き込んだ。
「その本、私も昔読んだな。最後がっかりしちゃったけど」
「あ、オチ言っちゃダメだからな」
相手を口止めしておき、ホークアイは読み差しに葉っぱを挟んで閉じてしまった。読むより人と話している方が楽しいのである。さて何を喋ろうかと、アンジェラに笑い掛けると、彼女は秘密めかした、含み笑いのような表情を浮かべた。
「ねえ、ホークアイ。ちょっと、お願いがあるんだけど……」
「どうぞ何なりと」
ホークアイも意味深に笑って返した。
「ナイフの使い方、教えてほしいの」
可愛らしく申し出て来たと思えば、中身は全く態度にそぐわぬもので、ホークアイは少々面食らった。依然アンジェラは無邪気な様子で、自分の荷物を座布団にしてホークアイの隣に座る。髪の毛は殆ど乾いたらしく、髪飾りで纏め始めた。
「それはかまわないが、どうして? 君には杖があるじゃないか」
「いつも持ってるわけにはいかないのよ」
大気にマナが満ち満ちていた時は、魔法の加護によってか、誰でも中空から武器を取り出しては仕舞う事が出来た。同じように、不要な荷物は倉庫に投げ込んでいたのだが、今となってはどちらも不可能で、荷物を携行するには全て手に持って運ばなければならない。デュランやホークアイのような刃物ならば、鞘に収めて携帯に困らないのだが、他の仲間達は嵩張る得物の処遇に難儀していた。アンジェラは身の丈ほどの長さの杖を扱うのだから、尚更だろう。そんな話をリースとしたら、彼女が短刀を持ち歩いていると聞き、アンジェラもそれを真似してみようと思い立ったそうだった。自立心には感心するが、アマゾネス兵のリースはともかくとして、王女のアンジェラが其処まで護身を徹底する必要も無い筈である。ホークアイは少々不思議に思った。
「お姫様の君が、そんなにがんばらなくてもいいんじゃないか?」
「自分の身くらい、自分で守りたいのよ。ね、いいでしょ?」
と、アンジェラはホークアイに顔を近付け、片目を瞑って見せた。ホークアイはちょっと考えた。自分としては構わないが、何だかデュランに反対されそうだった。フォルセナのデュランも、ナバールのホークアイも、元来女性は血腥い事柄に関わるべきでは無いと言う考えが根付いている。女性は男性が守ってやるものなのだ。しかし、アンジェラに関しては今更だろう。それに、そう身を乗り出されて頼まれれば、彼としても断るわけには行かなかった。
「わかったよ。それじゃ、ナイフが入用ってわけだな」
と、ホークアイはちょっと肩を竦めた。
「わーい、ありがと!」
アンジェラが万歳した。ホークアイは膝に引っ掛けていたガーブのマントを取り上げ、中身を漁った。ナイフにダガーに匕首に、次から次へと武器を出し、足元に並べて行くさまを、アンジェラが目を丸くして眺めた。
「いっぱいあるのね」
「ちょっとしたコレクションさ。よかったら、一つあげるよ」
「ほんと? ありがとう」
アンジェラはにっこり笑って、洋服でも選ぶかのように、嬉々として吟味し始めた。こう言った事物に対し彼女は実際的で、最も地味かつ殺傷能力の高いデスストロークを欲しがった。しかし、これは相手を殺すためだけに作られた武器で、汎用性に欠くものだから、ホークアイは軽くて綺麗なブルーゲイルを譲る事にした。そして、基本的な使い方の説明に始まって、雪原の魔物を例に挙げ、確実に仕留められる急所の位置を教えたりしていたら、川からシャルロットが戻って来た。いつもの青い上着を脱いでいる上、柔らかい巻き毛が濡れて真っ直ぐに萎んでおり、まるで別人のように見える。ホークアイはすっかり忘れていたが、彼の被った帽子を見て、シャルロットが思い切り噴き出した。アンジェラはしてやったりとばかり、ホークアイに目配せを送った。シャルロットはころころ笑いながら近付いて来、ホークアイの頭を指差した。
「ださださでち! ヘンテコオヤジにくりそつでち」
「アンジェラとおんなじ事言うなあ……」
と、ホークアイはちょっと肩を落とした。死を喰らう男にそっくりと言われると傷付くのである。
「あんたしゃん、おしゃれのせんすはいまいちだけど、ぎゃぐのせんすはなかなかでちね」
シャルロットは笑壷に嵌って、暫くの事お腹を押さえて笑っていたが、不意にまともな態度に戻った。
「シャルロットのぼうし、かえちて。ぼうしがなくちゃ、おひるねできまちぇん」
そう言うなり、ホークアイにのし掛かり、頭の装備を剥いでは放り投げ、ついには額のバンダナまで全部奪い取ってしまった。あちこちに散らばった装備から、彼女は自分の帽子を拾い上げたものの、被る前に妙な顔をして、内側に顔を突っ込んだ。帽子の中で、くぐもった声を上げる。
「……なんか、へんなにおいがする」
「おいおい、ヘンはないだろうよ」
ホークアイが言うと、シャルロットは帽子から顔を上げ、眉間に皺を寄せた。
「へんだってば。ね、アンジェラしゃん」
「私に聞かないでよ」
シャルロットはアンジェラに確かめて貰おうとしたが、嫌がって逃げ出されてしまい、標的はホークアイに戻された。
「ほんとに、へんなんだってば。あんたしゃん、かいでみて」
シャルロットはじれったそうに、帽子をホークアイの鼻先に押し付けて来た。ホークアイは一応確認してみたが、案の定、別に変な匂いはせず、他所の家の洗濯物の香りと、自分の石鹸の香りが混ざっているだけだった。期待の眼差しで見詰めるシャルロットと、やけに嫌そうな顔のアンジェラに対し、彼は首を振って返した。
「ふつうだよ。せっけんのにおいだ」
「でも、これ、シャルロットのにおいとちがう〜……」
「まあ、そう言わずにだな。頭に被っちゃえば分かんないって」
「それもそうでちね」
ごねたかと思えば、シャルロットは存外容易く納得した。そのまま帽子を被ろうとした手を、アンジェラが慌てて阻止する。
「そのまま被っちゃダメじゃない。髪の毛をかわかしてからにしなさい」
そう言われたので、シャルロットは素直に両手を下ろした。再び帽子の内側が見える格好になった。彼女は帽子をしばし見下ろし、アンジェラの方に差し出した。
「アンジェラしゃんも、かいでみる?」
「イヤだってば。ヘンなもの押しつけてこないで」
と、アンジェラは帽子を手で押し返した。ホークアイが苦笑いを浮かべる。
「ヘンじゃないんだってば……」
アンジェラは両方無視した。足元から新しい布を取り、シャルロットに上から被せ、強引に擦って拭き始めた。結局へんなものと言う汚名は払拭出来ないまま、ホークアイは今一つ納得が行かなかったものの、目の前で展開される微笑ましい光景には言い訳するつもりも失せてしまう。黄色い声を横目に、ホークアイは散乱した装備を拾い集めに掛かった。全て一纏めにして片付けたら、楽しげな所に少々失礼して、シャルロットの帽子に結んだリースのリボンも回収した。徐々に髪の膨らみが戻りつつあるシャルロットが、布の隙間から笑顔を見せた。
「ホークアイしゃん。シャルロット、せんすいできるよーになりまちたよ」
「すごいじゃないか。泳げるようになったんだね」
「まあ、ちょっとは水に慣れたみたいね」
アンジェラがやんわり肯定した。話によると、潜水では無く、水に顔を付けて十数える練習をしたらしい。シャルロットは自力では泳げないため、リースに手を繋いで引いて貰ったり、カールに乗ったりして川で遊んでいたのだが、すぐにやめてしまい、さっさと浅瀬へ上がってしまった。本人の弁では、何処ぞの傭兵が足を掴んで沈めて来るから嫌なのだと。アンジェラに服を着せて貰いながら、シャルロットはもごもごと文句を言った。
「デュランしゃんはいじわるなんでち。シャルロットがおよげないのをしってて、あしひっぱるんだもん」
「だってあんた、勝手に遠くに行っちゃうんですもの。デュランはいじわるだけど、連れ戻してくれてたのよ」
アンジェラが取り成したが、シャルロットはそれでも不満気だった。
「やりかたってもんがあるでちょ。リースしゃんはやさしく、いけまちぇんよーってよんでくれまち」
ホークアイはこんな所に留まっていたのをしこたま後悔した。あの傭兵は随分と楽しそうな悪戯を仕掛けたもので、自分もやってみたくなったのだった。内心うずうずしていたら、シャルロットに気取られたようで、少し距離を取られた。
「……それはともかく」
と、シャルロットがさっさと話題を変えた。
「きょうのおひるごはんは、おさかなのしおやきでちよ」
「へえ。それはおいしそうだね」
ホークアイも丁度腹が減ったところだった。シャルロットは得意気にして、にっこり笑う。
「たのしみにしてなされ。いま、シャルロットのしもべたちが、つかまえてまちから」
そう言って、シャルロットは川の方に目をやった。ホークアイも視線を追うと、三人と一匹は此処から大分離れた、渓流の段差に集まっていた。デュランとリースが岩場の上に立ち、めいめいの武器を構えて待機している。目を凝らして魚の影を見付けると、すかさず刺して捕まえるのだった。突いても首を傾げたり、何か言いながら下流を目で追い掛けたりしているので、空振りも多いらしい。そうして逃げた魚をケヴィンとカールが追い回していた。流れが急で足場の悪い所だが、獣人達には無関係らしい。暫く失敗した挙句、一匹仕留めると、皆揃って歓声を上げていた。付き合いでやっているかと思われたリースも、両手を合わせて一緒になって喜んでおり、どうやら乗り気で参加している様子である。三つ又の槍に刺さった魚を外し、デュランの盾に放り込み、こちらに気付くと、含羞んで手を振った。動く度、濡れた金髪がきらきらしく尾を引き、輝くような健康美を際立たせる。水の精霊のようだった。同じく生き生きとした健康美を備えたアンジェラが、友達に手を振り返した。
「私も一匹つかまえたよ」
遠くのリースとにこにこ笑み交わしていたアンジェラが、またホークアイの方を見た。
「あの杖で、よくつかまえられたね」
と、ホークアイはそばにある杖を見やったが、考えてみればずっと此処に置いてあったものだった。当然、アンジェラは否定した。
「杖じゃなくて、リースの槍を借りたのよ。私、けっこう上手なんだ」
リースから槍兵向きだと褒められたそうで、彼女は得意気だった。シャルロットも負けじと胸を張る。
「シャルロットは、みんなのしれーとーになってまちた。びしばし、てきかくなシジをだすんでち」
「目がいいのよ、この子。お魚を見つけるのが上手みたい」
と、アンジェラ。
「でちょ! シャルロットのめがくろいうちは、おさかないっぴきにがしまちぇん」
そう言って、シャルロットは偉そうに腰に手をやった。皆楽しそうに遊んでいたようで、ホークアイはやはり此処にいた事を惜しく思った。荷物番など放り出して、皆に交じって一緒に遊べば良かった。川の方では、今度はデュランが捕えたらしく、魚の刺さった剣を携え、盾の所へ向かって岩場を飛んで歩いていた。あの大振りな武器で良くも串刺しに出来るものだった。しかして、盾の前でリースと一緒に屈み込み、釣果を数え始めた様子から、昼食に足りうる量は十分賄えたようだった。ケヴィンが捕らえた所は見ていないが、彼の事だから、魚の一匹や二匹わけも無いだろう。つまるところ、全員が少なくとも一匹は捕まえた事になる。
「……って事は、さぼってんのはオレだけか。まずいな」
ホークアイが独り言つと、シャルロットが大様に首を振った。
「あんたしゃん、にもつばんしてたでちょ。それに、たべるしごとがのこってまち」
「そんなわけには行かないよ。働かざる者食うべからずだ」
奮って立ち上がった折、リースが髪の水気を絞りながら、渓谷を下って来た。アンジェラに乾いた布を渡されると、礼を言って体を拭き始める。
「そろそろ、ご飯の準備を始めましょ。みんなも手伝ってくれますか?」
髪を拭きながら、リースがそう言った。
「よしきた! 何でもするよ」
「おねがいね」
ホークアイが拳を叩くと、リースは布越しに返事をした。
「お魚、どのくらいとれたの?」
アンジェラが尋ねると、彼女は真っ白な布地のあわいから、満面の笑みを浮かべた。
「楽しみにしてて。今、デュランさんが持ってきてくれるわ」
噂をすれば、デュランが盾を抱えて走って来た。中身が揺れる度、泡立つような水っぽい音を立てる。到着するなり、デュランは一同の真ん中に威勢良く盾を据えた。端から飛び出した魚を、空中で器用に受け止め、再び中へと放り込む。
「一丁あがりっと!」
浅い器のような形をした盾に、背中や横っ腹に切れ目の付いた魚がこんもりと積まれていた。一部は未だ生きており、ばたついて水滴を跳ね散らかした。三人が感心してしげしげ覗き込むと、デュランが昂然と鼻を擦った。
「へへん、こんなの朝飯前だい!」
「たぶん、みんなで食べるぐらいはあると思います」
靴を履き、手袋を嵌めていたリースが言った。正確な数は把握していないそうなので、ホークアイは彼女と一緒に、改めて数え直す事にした。二人が屈んで数を数えていると、その間に、ケヴィンとカールも水から上がり、揃って体を大きく振るい、水飛沫を撒き散らした。シャルロットがカールを迎えに行き、背中に布を被せる。
「からだ、ふきふきしまちょうね。かぜひいちゃいまち」
カールは嫌がる事無く、世話を焼く手に合わせるようにして、歩度を緩めて河原を歩いて来た。一足先に戻ったケヴィンが、山盛りの魚を見、目を輝かせた。
「オイラ達、こんなにとったのか」
「ずいぶんがんばってたもんね。おつかれさま」
と、アンジェラが盾のそばに来て、ケヴィンの頭に布を被せた。
「ウン、楽しかった」
ケヴィンは頑張りを労われつつ、アンジェラに頭を拭いて貰っていた。かかるほどにホークアイ達は魚を数え終わった。大きいのと小さいので、都合十三だった。
「だいたい、みんなで二匹ずつですね。お昼ごはんには、ちょっと足りないかな」
と、リース。不慣れな割には沢山捕まえてくれたが、足りないものは仕方無い。
「みんな腹ペコだもんな。オレ、ひとっ走りウェンデルに行って、何か買ってくるよ」
「シャルロットもいく! うぇんでるに、おすすめのおみせがあるんでち」
ホークアイが立ち上がろうとした矢先、シャルロットが二人の間に顔を突っ込んだ。ふわふわの巻き毛を頬に押し付けられながら、ホークアイはリースを見た。
「というワケで、おつかいはオレ達に任せてくれ」
「じゃあ、おねがいしますね」
その頃、デュランとケヴィンはズボンの水気を絞り、それぞれ兜と帽子を拾い上げていた。シャルロットがホークアイ達から顔を抜き、立ち上がってそちらへ行った。
「あんたしゃんたち、アタマぬれたまま、かぶっちゃいけまちぇんよ」
「オイラ、拭いたよ。アンジェラがやってくれた」
と、ケヴィンは自分の前髪を摘まんだ。少ししっとりしているが、日に当たっていればじきに乾くだろう。ケヴィンにそう言われ、シャルロットは標的を変えた。
「じゃ、いけないのはデュランしゃんでちね。だめでちょ〜」
人に注意を促す時、シャルロットは嬉しそうににやにやする。年上ぶれるのが嬉しいらしい。髪の先から雫が滴り落ちているのだが、デュランは軽く頭を振ったきり、まるで頓着しなかった。
「ほっときゃかわくよ」
「そんなこといって、かぜひいたらどーすんでちか? シャルロットがやったげまち」
そう言って広げて来た、濡れた犬の臭いがする布をかわし、デュランはシャルロットから距離を取った。
「おっと! その布はかんべんしてくれよ」
「なんでちか? せっかくひとが、しんせつにしてあげてるのに」
空振りしたシャルロットは、ぷりぷり怒って、仕方無くカールの毛皮を拭き始めた。逃げ出した方は、やれやれと息をついたが、アンジェラが布を持って近付いて来るのを見、またしても逃げ出した。
「今度はお前か!」
逃げるのが楽しくなったらしい。ちょっとにやにやしながら、デュランは慌てて方向転換し、最終的にホークアイとリースの影に隠れた。おかんむりのアンジェラが、腰に手をやった。
「もう! びしょびしょで、気持ちわるくないの?」
「ぜんぜん。早く、火おこそうぜ」
小言をお座なりにかわし、デュランは靴を履きながら、ホークアイ達に話を振った。
「でも、薪がないよ」
そう言って、ホークアイはガーブのマントを漁り、中から火打石を取り出した。手持ちの油壷を燃やせば火は熾るが、火力が強すぎて火柱が立ってしまう。
「じゃあ、枝を拾ってきますね」
と、リースが立ち上がったのを、デュランが引き止めた。
「オレが取ってくるよ」
そう言いながら、彼は手早く兜を留め、ケヴィンの方を向いた。
「ケヴィン、行ってこようぜ」
「ん」
ケヴィンは頷くと、屈んでカールに話し掛けた。
「オイラ、ちょっと行ってくる。すぐもどるから」
そうして二人は支度を済ませ、川沿いの谷を駆け上がり、雑木のあわいに姿を消した。その後ろ影を見送った後、リースが小さな財布を取り出し、シャルロットに預けた。昼食のお小遣いである。
「お金はこの中に入ってるわ。気をつけて行ってきてね」
「塩とお昼ごはんだけよ。いらないものは買っちゃだめだからね」
と、アンジェラが念を押したが、シャルロットは容体振って聞いていた。
「しんぱいごむよー。ホークアイしゃんのたづなは、シャルロットがしっかりにぎってまち」
「じゃ、しっかり握られて行くとするよ」
ホークアイも愛想良く請け負い、かくしてウェンデルまで買い物に行く事となった。いかんせん、ウェンデルまでは少々間遠だった。其処でホークアイは、デュランの荷物を勝手に漁り、風の太鼓を拝借する事にした。一度フラミーを呼んでみたかったのである。シャルロットも一緒になって、嬉々として袋を覗き込んだが、小さな財布と、太鼓と笛と救急セットしか入っていなかった。シャルロットはつまらなそうにした。
「からっぽでちね」
「身軽でいいじゃないか」
着替えなどは神殿に置いて来てあるし、何よりデュランの荷物なのだから、こんなものだろう。ホークアイらが支度をしている間、アンジェラ達は料理の相談をしており、二人の悪事は見咎められなかった。アンジェラがナイフを片手に魚を見下ろし、どうしたものかと思案した。
「……私、お魚なんて切った事ない」
アンジェラがぽつりと言った。リースも試しに一匹持ち上げてみたが、やはり良く分かっていない様子だった。
「私も……。たしか、おなかを切って、苦い所をとるんじゃなかった?」
「うまくとれるかなあ?」
娘達が相談していると、カールが二人の間に挟まって、鼻先を盾に近付けた。この狼は人間と共に育ったせいか、肉や魚を生では食べない。匂いを嗅いでおしまいだった。デュランの袋の口を縛って、証拠隠滅を図っていたホークアイは、ふとカールを見て思い出した。
「とらなくてもいいかもよ。こういう所に住む魚は、ワタまで食べられるんだってさ」
と、いつだかケヴィンが言っていたのである。
「えー、シャルロット、わたはたべたくありまちぇん……。とってくだちゃい」
違うワタでも想像したのか、シャルロットは渋い顔をした。
「そうね。できるだけやってみるわ」
と、リース。
「おてすう、おかけいたしまち」
シャルロットが頭を下げた。そうしたわけで、結局腸は取り除くことにした。綺麗に洗い流せるよう、作業は川の近くで取り掛かる事にする。ホークアイが盾ごと魚を運んでやり、ついでなので少し手伝ってみる事にした。捕る時に付けた傷に注意しながら、穴を開ける程度に腹を切り、中身を押し出すように清流で洗う。桃色の腸が飛び出し、ちょっと気持ち悪かったが、すぐに流れて下流に行ってしまった。ナイフの扱いは慣れたもので、さっさと切って中身を洗うホークアイに、隣で見ていたリースが感心して声を上げた。
「あ、上手上手」
「けっこうカンタンだよ。リースもやってごらん」
上手く出来るかどうか、切る段で躊躇していたリース達も、それぞれのナイフを構えた。其処で、アンジェラの持つ青い刀身に気付き、リースが嬉しそうにした。
「アンジェラも、そのナイフをもらったのね」
「そうよ」
と、アンジェラがにっこりした。
「彼女、オレに弟子入りしたんだよ」
リースもアンジェラもブルーゲイルを持っており、青い煌めきが良く似合っていた。どちらもホークアイが渡したものである。リースの方は武器と言うより、枝を払ったり食材を切ったりする用途に使うので、ホークアイも守り刀くらいの意味で譲ったのだった。二人はお揃いの持ち物に和気藹々としながら、ちまちまと魚の腸を抜いて行く。普段もっと気色悪いものを見ているので、大した抵抗も無さそうだった。ホークアイは三匹片付けた所で作業を切り上げ、カールと遊ぶシャルロットの方へ行った。カールはバットムの瞳に夢中で、転がしたり放り投げて貰うのが楽しいらしい。魔力を失い、ただの光る玉になったバットムの瞳は、それくらいしか使い道が無かった。
「遅くなってゴメンよ」
「いけまちぇんね、れでぇをまたせるなんて!」
と、シャルロットは腰に手をやり、怒る真似をした。
「ごめんごめん。カール、ちょっとシャルロットを借りてくよ」
ホークアイはシャルロットに軽く頭を下げ、早速出発する事にした。留守番の二人を番犬カールに任せ、ホークアイとシャルロットは山を少し下り、開けた場所でフラミーを呼んだ。来るかどうかは半信半疑であったが、ホークアイの顔も覚えてくれていたようで、フラミーはすぐさま舞い降りて背中に乗せてくれた。瞬く間に運んで貰ったウェンデルにて、まず肝心要の塩を調達し、パン屋でシャルロットお勧めの食べ物を買い、言い付け通り寄り道せずに真っ直ぐ帰った。空に立ち上る煙を頼りに、颯爽と河原へ戻れば、その頃には焚き火が熾されて煌々と燃えており、魚は一つ残らず腸を除いてあった。適当な小枝を串にして、魚を刺し通し、塩をまぶして味付けするのは全員で取り掛かった。そうして下拵えした魚を、焚き火のぐるりを取り囲むように立てて行った。かかるほどに準備は終わった。焼いている間は再び皆で遊ぶ事にし、今度はホークアイも参戦した。カールにおもちゃを投げてやったり、小石の水切りを競っていたりしたら、熱中するあまりちょっと焦がした。早く焼けるようにと火に近付け過ぎたのだった。
待ちに待った昼食である。六人と一匹で焚き火を囲み、濡れた体を乾かしながら食べ始めた。カールに食べさせる分の、塩を付けずに遠火で炙った魚は、シャルロットがほぐして冷ましながら与えている。彼女はカールが大のお気に入りで、年上ぶって世話を焼けるのが嬉しくて堪らないようだった。微笑ましい光景を、ホークアイは焚き火越しに眺めつつ、炭化した魚の尻尾の先を軽く削り、吹いて冷まして、腹からかじり付いた。まだ熱かった。丁寧に満遍無く塩がまぶしてあり、どうやら女の子のどちらかが料理した魚らしい。ありがたく頂いていると、隣に座っているリースも、魚を横に持って背中から食べ始めた。リースが大きな口を開けた拍子、ふとホークアイと目が合ったので、彼女は照れくさそうにしながら魚をかじった。
「おいしいですね」
相手がちょっと気まずそうだったから、ホークアイも魚にかぶりつき、にっこり笑った。
「君が用意してくれたと思うと、ますますおいしい気がするよ」
焦げるくらいが香ばしくて丁度良かった。熱いのを押して、リースと競うように食べ進めていたら、あっと言う間に一匹平らげてしまい、串を焚き火に放り込んだ。お代わりしようと、手近に刺さっていた魚を取ると、デュランが嬉しそうに指差した。
「それ、オレがとったやつな! 一番でっかいの!」
「そのとなりは、私がとったお魚ね」
アンジェラも小振りな魚を指し示した。自分で取った魚なのだから、自分で食べたいだろうかと思ったが、二人とも違う魚を取り始めたので、さして拘りは無いらしい。一応、ホークアイは許可を取った。
「オレもらっちゃうけど、いいか?」
「おう、食え食え」
と、デュランは魚をかじった。
「アンジェラのお魚は、私がもらっちゃいますね」
「どうぞ」
リースも一緒になって尋ねると、アンジェラも愛想良く返事した。快諾されたので、リースもお代わりに手を伸ばした。デュランは熱々の尻尾から、アンジェラは胸の辺りからと、全員てんでんばらばらの部位から食べ始めた。ホークアイが貰ったのは折角の大物であるが、いかんせん頭が無いため、正確な大きさは分からない。捕る時に勢い余って首を叩き斬ったらしい。小さな魚も香ばしくて好きだが、大きな魚も身が柔らかくほぐれて美味しかった。猫舌のシャルロットは、先程までカールの世話を焼いたり、油でべたついた手を舐めるのに忙しそうだったが、漸く自分も食べ始めた。冷めるようにと、脇によけておいた魚に手を伸ばし、焦げ目の入った魚をまじまじと見詰めた。
「このおさかなは、せなか、きれてまちぇんね」
「ああ、ケヴィンのとったやつだろ。素手でつかまえるんだぜ」
デュランが隣を指差した。シャルロットは目を丸くし、獣人の少年に向かって頭を下げた。
「あんたしゃん、あそんでたわけじゃなかったんでちね。おみそれしまちた」
ケヴィンは魚の尻尾を咥えて串から抜き、口で手繰り寄せるようにして食べていた所だった。熱くないらしい。シャルロットに褒められると、彼は照れて頭を掻いた。
「魚のとり方、カールに教えてやってるんだ」
「カール、なんひきつかまえたの?」
シャルロットがカールに尋ねたが、話題の主は魚に夢中だった。丁度その時、ケヴィンがそれと無く目を逸らし、串を手元でいじくり始めたので、何と無くホークアイも察した。
「……ま、たまにはそんな日もあるさ」
シャルロットも察したらしく、きょとんとしてケヴィンを見た。
「あれま。ぼーずでちか?」
「うん……オイラの教え方が悪いのかも」
要するに、カールは一匹も捕まえられなかったのだ。話している内に、串を折ってしまい、ケヴィンは火に投げ込んだ。其処に、魚を咥えたデュランが横槍を入れた。
「はりなんかへはくほれいいりゃん……」
と、何だか良く分からない言葉を言い切らない内に、アンジェラから腕をつつかれた。
「食べてる時にしゃべらないの」
「ほへん」
食べながら喋るのは行儀が悪い。アンジェラに注意を促されたので、それから暫く、皆黙って魚を咀嚼した。大急ぎで嚥下したデュランが、漸く続きを話し始める。
「別にいいんじゃねえの? 狩りなんかできなくたって、食いっぱぐれるわけじゃねえんだし」
「カールなら、シャルロットがやしなってあげまち」
シャルロットが頼もしい事を言い、カールも喜んで尻尾を振ったが、ケヴィンは相変わらず浮かない顔だった。
「食べものはいいんだけど……」
と、足元に視線をやった。
「狩りできなきゃ、カール、一人前のウルフになれない。ずっとコドモじゃダメだから」
「そうか」
「それは、いけまちぇんね」
デュランとシャルロットも、それには同意を示した。と、丁度その時、魚を食べ終えたカールが顔を上げ、尻尾を振りながら首を傾げた。お代わりが欲しいようだ。そんな仕草に絆されてしまい、苦笑いで魚をほぐし始めたケヴィンを見るにつけ、あれでは強くも言い出せまい、とホークアイも得心が行った。ケヴィンはカールを何よりも可愛がっているのだ。本人も気にしているらしく、ケヴィンの語勢が弱まった。
「カール、親いない……。だから、オイラが教えてやらなきゃ。優しくするだけじゃ、カールのためにならない」
「そのうち覚えるよ。オレだってオヤジいないけど、ひとりでに剣術覚えたぜ」
デュランがそう慰めると、隣のアンジェラが彼の方を向いた。
「だから、あんなヘンテコな斬り方なのね」
「何とでも言え。ヘンテコでも大陸一だ」
と、デュランは魚を持ったまま腕を組んだ。アンジェラもそれは認めているから、特に反論せずにしまった。
「ケヴィンしゃんは、カールのおにーたまでちからねえ。あんたしゃんがしっかりちて、おてほんになってあげなくちゃ、いけまちぇんね」
シャルロットが魚を食べながら、もごもごと言った。
「ケヴィンは十分よくやってるよ」
ホークアイがケヴィンを褒めてやった。デュランはああ言っているが、やはり手本があるのは重要である。同じく親の無いホークアイとて、盗みとナイフの技術は、育ての親やナバールの仲間達から教わったものだった。カールにはケヴィンと言う立派な手本があるのだから、後は本人のやる気次第なのだろう。
「うん……」
しかし、ケヴィンは責任を感じているようで、しょんぼりと俯いて、覇気の無い返事をした。ホークアイは苦笑しながら、カールに頑張れと目配せを送ったが、生憎カールは魚に夢中だった。ケヴィンとカールは兄弟のようにそっくりだが、こう言う繊細なところは似ていないらしい。
「ねえ、ケヴィン」
それまで黙って聞いていたリースが、串を火にくべ、ケヴィンに話し掛けた。ケヴィンが顔を上げた。
「カールはいくつになるの?」
「カール、一さい」
「そっか」
頷きながら、リースはカールを見て微笑する。
「一さいの狼なら、まだ子供なんだと思うわ。あせらなくてもいいんじゃないかしら」
「そうだよ。私なんて、この間一人前の王女になったばっかりだもん。ゆっくりでいいのよ」
アンジェラも笑いながら、リースに調子を合わせた。
「そうか……?」
ケヴィンはそう呟いて、ちらりとホークアイの方を見た。彼は困った時、しばしばホークアイに是非を問う。ホークアイなら正しい答えを持っていて、ケヴィンに教えてくれると信頼しているのだ。ホークアイが頷くと、ケヴィンもそれで納得したようだった。
「そうか」
と、彼は小さく言って、済まなそうにカールを見た。
「オイラ、むずかしく考えすぎてた。ごめんよカール」
其処で漸く、カールは魚から顔を上げ、金色の目でケヴィンをじっと見詰めた。ケヴィンがそうであるように、カールも人の心の機微に聡いようである。カールは首を傾げながら、どうしたのかとケヴィンを心配していた。
「カールもうれしいよね。こんなにケヴィンが真剣に考えてくれてるんですもの」
と、リースがにっこりした。カールは、話の内容そのものは良く分かっていないようだが、自分とケヴィンの話をしているとは理解して、わん、と返事をした。話に区切りが付いたところで、皆が丁度魚を食べ終わった。やはり二匹ずつでは少なくて、誰もが物足りない思いをした。
「さあ、シャルロット達は何を買ってきたの?」
アンジェラが威勢良く言って、買い物籠を手元に引き寄せ、覆い被さっているハンカチを取り除いた。すると、中から大きな四角い塊が出て来て、彼女は大いに面食らった。ホークアイは見ないふりをした。大きなバターケーキを買って来たのである。一応、申し訳程度にごく普通の丸パンも入れてはあるのだが、皆すっかりケーキに気を取られてしまった。アンジェラは怪訝な顔をしながら、ナイフでケーキを厚く切り分けた。しかして、どうやって取ろうか逡巡したが、結局手で掴んで取ることにしたらしい。籠から出した一切れを、アンジェラはまずケヴィンに渡した。断面に木の実の粒々が沢山見えた。ケヴィンは礼を言って受け取り、半分千切ってカールに与えた。アンジェラは皆が食べられるよう、ケーキを等分に切り始めたが、ちょっと焚火の方を見て、些か渋い顔をした。
「買ってきてもらって、文句言うのはなんだけどさ……お魚にケーキっていうのは、どうなの?」
「おいしいでちよ。シャルロットのだいすきなおやつでち」
シャルロットが機嫌良く言った。彼女がホークアイをパン屋に引っ張って行って、これが良いと言って聞かないものだから、魚には合わないだろうと思いながらも、ホークアイはケーキを買って来たのだった。
「うん。うまいよ」
ケヴィンがにっこりした。ケーキの端っこ、かりかりした焦げ目の付いた、一番良いところを貰っていた。しっとりした黄色い生地に、くるみや干しぶどう、アーモンドと言った木の実が練り込んであり、程良い甘さと香ばしい風味が口いっぱいに広がる。それが如何にも美味しそうだったので、シャルロットは油でべたついた手を拭き取り、アンジェラに向かって手を差し出した。
「アンジェラしゃん。シャルロットにもちょーだい」
「私にもくださいな」
と、リースも一緒になって両手を差し出した。
「ちょっと待って」
アンジェラはケーキの一切れを摘み、なるべく指が触れないように気を付けながら、リースとシャルロットのそばへ行って手渡した。二人は礼を言って受け取り、美味しいと笑み交わしながら、もくもくと食べ始めた。アンジェラも自分のケーキを取り、一口かじって、意味ありげにホークアイの方を見た。
「ちゃーんと、シャルロットの言うことを聞いてたわけね」
「いい子にしてましたよ。オレにもくれるかい?」
と、ホークアイは片目を瞑って見せた。アンジェラはくすくす笑いながら、自分のケーキを口に咥えて、ホークアイの分を出して渡してくれた。受け取った一切れに、ホークアイは喜んでかぶりついた。当たりだったようで、木の実がたっぷり詰まっていた。この身が詰まったケーキは、ミルクを一緒に飲むともっと美味しいのだと話しつつ、皆で食べ始めると、蚊帳の外だったデュランが羨ましがった。
「おい、オレにもくれよ」
「あ、ごめん、忘れてた」
と、アンジェラが適当な返事をした。デュランは不満に思ったらしく、口を尖らせた。
「早くしないと、全部シャルロットに食われちまうじゃん」
「シャルロットは、そんないじきたないまねはしまちぇん」
優雅な風を取り繕って、ゆっくりとケーキを口に入れながら、シャルロットが顎をそびやかした。シャルロットは大きな魚を二切れ食べ、ケーキは分厚いのを三つも四つも平らげてしまい、この小さな体の何処に入るのか不思議なぐらいだった。結局、丸パンも瞬く間に無くなってしまい、少々物足りない腹を抱えて山を降りる事になった。次の楽しみはウェンデルの夕食である。